2026-08-03 13:39:04
Big Fiveを調べていったら「職種の相性」の話が足元から崩れた
プログラマとPMとPdMで、見てるものが違いすぎる
同じプロダクトの同じ会議に出てるのに、話が噛み合わない瞬間ってあるじゃないですか。
自分がコードを書く側にいるときは、まず構成の美しさを気にします。この責務はこっちに置くべきだよなとか、ここで握ってる依存は今のうちに切らないと後で効いてくるよなとか。でもPMが見てるのは納期です。PdMが見てるのは利益。で、三者とも自分の持ち場から見れば正しいことを言ってる。
そしてだいたい、PdMの考えが通ります。納期がタイトになって、恒久対応をする時間が確保できなくて、暫定のまま積んだコードがぐちゃぐちゃになっていく。これがわりと頻繁に起きる…
長いこと「これは性格の相性なんだろうな」と思ってました。あの人はディテールを気にしないタイプだから、みたいな。それで性格の枠組みのほうを調べ始めたんですが、掘れば掘るほど前提が崩れていったので、その過程を書きます。
Big Fiveは「言葉を数えていったら5つになった」もの
性格の話で学術的な標準になっているのがビッグファイブです。Five-Factor Model(FFM)とほぼ同義で使われます。
面白いのは出自で、理論から演繹したものじゃないんですよね。土台にあるのは語彙仮説という発想で、「人間にとって意味のある個人差は、必ず言語の中に単語として沈殿しているはずだ」というもの。Allport と Odbert が1936年に英語の辞書から性格を表す語を約18,000語抜き出して、それを圧縮していった先で、Tupes と Christal が1961年に5因子構造を報告した。Goldberg が1990年に "Big Five" という呼び名を定着させています。
出てきた5つがこれです。
| 因子 | 高い側 | 低い側 |
|---|---|---|
| 開放性(Openness) | 知的好奇心、抽象的な概念への関心、想像力 | 保守的、現実的、慣れた手順を好む |
| 誠実性(Conscientiousness) | 勤勉、計画的、几帳面、やり遂げる | 衝動的、無秩序、責任感が薄い |
| 外向性(Extraversion) | 社交的、活動的、自己主張が強い | 内省的、静か、単独作業を好む |
| 協調性(Agreeableness) | 協力的、親切、他者を信頼する | 懐疑的、批判的、対立を辞さない |
| 神経症傾向(Neuroticism) | 不安、気分の変動、緊張しやすい | 落ち着き、自信、情緒安定 |
どれも良い悪いじゃないところがミソで、両端それぞれに適応的な面がある。協調性が低いのは交渉や品質ゲートでは武器になるし、神経症傾向の高さはリスク検知の感度と結びつく。論文だと神経症傾向を反転させて Emotional Stability と書くことが多くて、これは価値中立を保つための慣行でもあります。
各因子はさらに下位ファセットに割れます。NEO-PI-R という尺度だと1因子あたり6ファセットで計30個。誠実性なら「有能感・秩序・良心性・達成追求・自己鍛錬・慎重さ」みたいに。因子レベルだと粗すぎて予測が効かないのに、ファセットレベルなら効く、という話もあります。
MBTIとは何が違うのか
日本語で「性格」といえばほぼMBTIなので、ここは押さえておきたいところ。
| Big Five | MBTI | |
|---|---|---|
| 出自 | 語彙の因子分析(帰納) | ユング心理学(理論) |
| 出力 | 5次元の連続スコア | 16タイプの離散分類 |
| 次元の切り方 | 各因子が正規分布する連続量 | 各軸を中央で二分 |
| 研究での扱い | 事実上の標準 | ほぼ使われない |
対応関係自体はあります。E/I が外向性、S/N が開放性、T/F が協調性、J/P が誠実性におおむね対応する。ただし神経症傾向に対応する軸がMBTIには存在しない。
そしてMBTIの厄介なところは、連続量を中央でぶった切ってしまうことです。実際には大半の人が真ん中付近にいるので、51:49の人が「E型」に分類されて、数週間後に受け直すとタイプが変わる。後で出てくるペアプロ研究で結果がバラバラなのも、MBTI系の尺度を使った研究が多いことと無関係じゃない気がしてます。
で、Big Fiveはどれくらい当たるのか
ここが今回いちばん認識が変わったところでした。MBTIよりマシではあるんだけど、予測力そのものはかなり控えめです。
古典的には Barrick と Mount の1991年のメタ分析があって、誠実性と職務パフォーマンスの相関が ρ ≈ .22。全職種を通じて安定して効く唯一の因子とされてきました。相関 .22 というのは、説明できる分散が5%弱ということです。
さらに2022年、Sackett らが Journal of Applied Psychology で、従来のメタ分析は範囲制限(range restriction)の補正をかけすぎていたと指摘しました。採用選抜の妥当性が軒並み下方修正されて、特に認知能力テスト(GMA)が大きく落ちた。解説記事によると21世紀の研究に限れば .23 まで下がって、予測手法のランキングで5位から12位に転落しています。構造化面接(.42)のほうが上、という結果。
つまり性格スコアで人を測ろうとすると、当たるには当たるけど、当たり方が薄い。この感覚を持っておかないと、この先の話を読み違えます。
批判もいくつかあって、自己申告バイアス、状況特異性(「素の性格」より「職場での振る舞い」に限定して聞いたほうが予測が上がる)あたりが定番。個人的に一番重く感じたのは文化普遍性のほうで、ボリビア・アマゾンの Tsimane 632名を対象にした研究では、5因子構造がまったく再現しませんでした。因子の一致係数が0.62(基準は0.90)、教育水準や言語能力で層別しても改善せず。語彙仮説の前提そのものが揺らぐ結果です。
ペアプロ研究4本が、見事に食い違っている
性格と相性の話を、ソフトウェア開発の文脈で一番シンプルに検証できるのがペアプログラミングです。2人組という最小単位。ここなら答えが出てるだろうと思って読んだら、出てませんでした。
いちばん重いのが Hannay らの2010年の研究(IEEE TSE)。被験者が学生ではなく職業プログラマ196名、3カ国、98ペアというのが強くて、他の研究がだいたい学生対象なのに対してこれだけ実務に近い。Big Five をペアの「平均」と「ペア内の差」の両方で集計して、熟練度(junior / intermediate / senior)とタスク複雑度も一緒にモデルに入れています。
効果量の書き方が容赦なくて、印象に残りました。
開放性の平均が1ポイント上がると所要時間の改善はわずか0.013分。junior から intermediate に一段上がると約20分改善する。
3桁違う。予測変数のランキングもこの順でした。
- タスク複雑度
- 国
- 熟練度
- 外向性の「ばらつき」
5〜7. 協調性・誠実性・開放性の「ばらつき」
8〜13. 各特性の平均値
さらに「多変量モデルから性格を丸ごと除くと、適合度指標はむしろ良くなり R² もほぼ同等」とまで書いてある。モデルに入れる価値がない、と自分たちの研究対象を切り捨てている。著者らの提言はこうです。スクリーニングに割けるリソースが限られているなら、性格テストで人を割り当てるより、熟練度とタスク複雑度のマッチングに集中すべきだ、と。
一方、Salleh らの2009年の実験(オークランド大の1年生54名、IPIP-NEO 120項目)は、誠実性のスコアで意図的にペアを組んで比較しました。高×高/低×低の同質ペアと、高×低の混合ペア。結果は有意差なし。ただしペア構成とは無関係に、開放性とテスト点の間に r = 0.35 の相関が出ています。同じ著者らが追試を含む5実験・594名に拡大した2014年の論文でも、誠実性と神経症傾向は有意差なし、開放性だけが差を生みました。
逆の結論を出したのが Sfetsos らの2009年の研究(EMSE 14巻2号)で、学生84名・42ペア、Keirsey 気質分類を使って「混合気質ペアのほうが有効」と報告している。コミュニケーション事象を要件収集・仕様変更・コード・単体テスト・ピアレビューの5トピックに分類してカウントしているのが独特で、測ってるものが他と違う。
「混合が効く」と言ってるのがMBTI系の尺度を使った研究で、「効かない」と言ってるのがBig Five系。ここに何かあるんじゃないかと疑ってるんですが、証拠として並べられるほどの数は読めてないので、今のところ勘です。
話が逸れるけど、論文の数字が合ってなかった
Salleh らの2009年のPDFを読んでいて気づいたんですが、本文には MANOVA の結果が p = 0.93 と書いてあるのに、Table VII の Sig. 列は 0.09 なんですよね。片方は誤植だと思います。有意水準0.05には届かないので結論は変わらないんだけど、査読を通った論文でもこういうことは起きるんだなと。
あと同じ論文の Table I が地味に価値があって、ペアプロ×性格の先行研究10件が「被験者数・独立変数・従属変数・結論・使用尺度」の表になってる。Chao & Atli が58名で影響なし、Katira が564名で結果まちまち、Williams が1350名で部分的支持、Choi が128名で有意な影響あり。並べると壮観なくらいバラついてます。
話を戻します。
「職種の相性」を性格で説明するのは、たぶん筋が悪い
ここから先は自分の解釈が混ざるので、そのつもりで読んでください。論文がここまで言ってるわけじゃないです。
冒頭に書いた噛み合わなさ、つまりプログラマが構成の美しさを取り、PMが納期を取り、PdMが利益を取る、というあれ。あれを性格の言葉で説明しようとすると、たとえばこうなります。プログラマは誠実性が高くて秩序を求める、PdMは開放性が高くて新しい機会に飛びつく、と。
でも、これはたぶん違う。理由は単純で、同じ人が役割を移ると言うことが変わるからです。エンジニアからPdMになった人が納期と利益の話をし始めるのはよく見る光景で、その人の Big Five スコアは数ヶ月で変わったりしない。変わったのは、その人が最適化するように求められている目的関数のほうです。
プログラマの目的関数は保守可能性で、PMは期日で、PdMは事業のリターン。この3つは短期的にはトレードオフになるように設計されている。噛み合わないのは当たり前で、噛み合ったらそれはそれで役割分担が壊れています。
ここに Hannay らの結果を重ねると、けっこう示唆的に見えてきます。ペアプロという2人組の最小単位ですら、性格より効いていたのはタスク複雑度と熟練度でした。つまり「誰と誰か」より「何をやらせているか」。もっとも、これを職種間の関係に外挿していいかは怪しくて、Hannay らの実験は1日で終わる短期セッションなんですよね。著者たち自身が、集団力学には数日から数カ月かけて立ち上がるものもあるから、長期の縦断研究なら性格の効果がもっと出る可能性はある、と書いています。PdMとエンジニアの何ヶ月も続く関係は、この研究の射程の外にある。
それでも配置や人選の根拠を性格テストに求めるのは、費用対効果として割に合わないと思ってます。相関 .2 の道具で、目的関数の衝突という構造の問題を解こうとすることになるので。
代わりに何を見るか、というと候補はいくつかあって、Team Topologies の認知負荷とインタラクションモードの話がわりとしっくりきました。PdMとエンジニアが毎日すり合わせ続けている状態を「相性が悪い」と読むんじゃなくて、本来 X-as-a-Service に移行すべき関係が Collaboration モードに張り付いている設計ミスとして読む。あとは SVPG が言う feature team と empowered team の区別で、機能リストを渡される関係なのか、解くべき課題を渡される関係なのかで、そもそも衝突の質が変わる。このへんはまだ読み込めてないので、別の機会に。
分かってないこと
開放性だけが複数の研究をまたいで生き残るのは、なぜなんでしょうね。Salleh の1本目で r = 0.35、2本目の5実験でも有意、Hannay のランキングでも「ばらつき」が上位に残る。Big Five 全体の予測力が薄いことを踏まえると、この生存はむしろ目立ちます。新しいやり方への抵抗の少なさが、共同作業のコストを直接下げてるのかなと思ったりもするけど、根拠はないです。
もうひとつ、性格の効果が長期の関係でどう出るかは本当に誰も答えを持ってない。ペアプロは1日以内の話で、チームは年単位の話なので。ここが埋まらないと、冒頭の「PdMと噛み合わない」問題に性格が関係あるかどうかは、結局のところ分からないままです。
自分の中では「性格の相性の問題ではなかった」で一旦決着したんですが、これは決着というより保留に近いのかもしれない…
同じような噛み合わなさで消耗してる人がいたら、相手のタイプを推測するより先に、その人が何を最適化させられているかを見てみると、少し気が楽になるかもしれません。
参考
これはclaude codeで生成しました。